ハンセン病倫理研究会は、2011年2月に、大島青松園の当時の総看護師長が、大学教員(本研究会世話人)に、看護師教育の支援を求めたことに端を発します。その後、療養所看護師と共同研究を進める中で、療養所やハンセン病回復者の方々の抱える問題が浮き彫りとなってきました。それらの問題の解決に向け、療養所看護部と手を携えて関わる中で、日々の看護実践の向上のみならず、ハンセン病回復者と大学生との交流、ハンセン病に関する授業展開などに活動の幅が広がり、今に至っています。今後も、大島青松園・長島愛生園・邑久光明園を中心に、ハンセン病療養所の「今」を支える活動と、将来を見越して必要となる事柄を、療養所と手を携えながら行っていきたいと考えています。
研究会世話人 香川県立保健医療大学 教授 近藤真紀子
ハンセン病回復者の方々の平均年齢は86歳を越え、療養所のかかえる問題は、時々刻々と変化しています。
私たちは、ハンセン病回復者の方々が少しでも幸せでいてくださるよう、療養所の看護師・介護員と手を携えながら、ハンセン病回復者の方々の‛今‘を支えていきたいと考えています。
ハンセン病回復者と縁のある方々、療養所に勤める職員、ハンセン病について学ぶために集う人々…、いろいろな方々が療養所に集い、交わっています。(新型コロナの影響で今は島を閉じています)
しかし、ハンセン病回復者の高齢化と減少に伴い、療養所の縮小は待ったなしの状態となり、これら集った方々も散り散りになろうとしています。苦楽を共にした仲間が一人二人と少なくなる中で、最後のお一人まで寂しくないよう、また、回復者の方々に代わってハンセン病を伝承していくために、縁を紡いできた人たち・新たに縁を紡いでくださる方々が,集いつながる場として、本研究会が受け皿になりたいと考えています。新たにハンセン病に関心を持たれた方のご参加もお待ちしています。
ハンセン病では、アウシュビッツに匹敵する非人道的処遇があり、社会の中でも苛烈な差別・排斥・迫害を受けた歴史があります。この度の新型コロナウィルス感染症で、医療従事者や感染者などへのハラスメントが起こったことで、改めて、ハンセン病に対する関心が高まっています。ハンセン病回復者の方々の過酷な体験が二度と繰り返されることがないよう、その教訓として、ハンセン病を語り継いでいく必要があると考えています。
加えて、艱難を越えた者の叡智は、我々が直面する困難の解決に貴重な示唆を与えてくれます。ハンセン病回復者の方々が人生を賭して得た叡智を、次世代に語り継ぎ、未来の問題解決に役立ててもらえればと願っています。
ハンセン病回復者の方々が一人二人と少なくなる中、最も近くでケアする看護師・介護員が語り継ぐことの意義は大きいと考えています。
我々研究者の仕事は、現象の本質を明らかにすることです。
ハンセン病回復者の過酷な体験に含まれる本質的な意味は何なのか、その本質的な意味を、現在を生きる我々の問題解決にどのように活かすことができるのかなど、最新の知見についてご報告していきたいと考えています。
原爆やアウシュビッツの体験が、人類全体の負の遺産であるように、ハンセン病に含まれる普遍的意味は、わが国を越えて、人類共通の負の遺産あるいは艱難を超えた者の叡智として、次世代に伝える必要があると考えています。